「朝霞〜!おっはよー!……って、何読んでるの?」
テンションの高い友人に、私は読んでいた本の表紙を見せる。
「……まさか、またミステリー小説?」
頷く。
そして溜息をつく友人。
「あんた、本当そういうの好きだよね〜。」
あたしには信じられないよ、そんなのが好きなんて、と溜息混じりに言う。
何故このおもしろさがわからないのだろう。ミステリーのなかにはいい話だって沢山あるのに。
そういう顔をしてみると、友人はその表情の変化に気づいたらしく、
「いや、あんたの言いたいことはわかってるよ。ミステリーのなかにはおもしろいのもあるって言いたいんでしょ?」
さすがは長年の付き合い。よくわかってらっしゃる。
「まあ、人の好みなんてそれぞれなんだろうけどさ…」
ちらりと私の後ろを見て、呟く。
「これはちょっと、異常なんじゃない?」
異常。
…何がだろう。
普通の本棚でしょ?
「普通じゃない!普通の奴は壁一面の本棚なんて持ってない!」
持ってるかもしれないじゃないか。
「たとえ持ってても、全部ミステリーってありえないよ!」
ありえないことはない。
だって私がそうだから。
「だからそれが異常なんだって!」
突っ込まれた。
「あんた、あたしと同い年でしょ?高校生でしょ?どんだけ本買ってるのよ!」
いいじゃないか、好きなんだから。
「開き直るなよ!……まったく、そんなことだからいつまでたっても彼氏ができないんじゃない?」
それは関係ない。
「いや、関係なくないよ。あんたと付き合ってた人皆、部屋に来てから別れたんでしょ?」
それは偶然。
「偶然じゃないと思う……」
頭抱えなくても…
それはさておき、どうしたのだろう。家まで来るなんて。
「あぁ、忘れるとこだった。これ、あんたにって。」
大振りなかばんから取り出した物を見て、私は飛びついた。
「あんたこういうのだけは早いよね…はい。」
受け取って、中身を確認する。
間違いない。これは……
「まったく、凄いね、あんたのコネは。」
「あ、浅田さんの新刊……っ!」
「やっとしゃべったよ…」
「ありがとう!ありがとう!大沢さんにもらったの?」
「うん。あの店員さんに。」
「わー…!ありがとう…!」
「って、言ってるそばから読むなよ……」
ぱらぱらとページをめくる。
ああ、これぞ新刊の匂い……!
「…あんたさ、新刊読んでる時が一番幸せそうだよね。」
「私の夢は、地震の振動で落ちてきた本に潰されて死ぬことです。」
「本望でしょうね。」
「もちろん!」
「……ていうか、どんなコネ持ってるの?作家から新刊届けられるって……」
「え?だって…浅田さん、私の従兄弟だから。」
少しの沈黙。
そして、
「えぇぇ?!マジで?」
絶叫。
「うん。従兄弟の浅田 美樹斗さんです。」
「そっかーなるほどねー…」
「だから、浅田さんのサインだったら簡単にもらえるよー。」
「え、因みに浅田さんってどんな人?」
「こんな人。」
私は携帯電話を取り出し、友人に写真を見せた。
「……かっこよくない?」
「んー…かなぁ。」
「あー…あんたは読めれば何でもよさそうだもんね…」
「私もさすがにそこまでじゃない……」
「でもあんたの持論じゃ作家の容姿はそれほど気にしないんじゃ…」
「いや、浅田さんは一応親戚なんだし……それに、それ持論じゃないし。」
あれ、そうだっけ、と言う友人。
「私の持論は、『物語とは世界である。そしてそれを読むということは、その世界を自分の中に取り込むということである。』だよ。」
私が持つ、数少ない持論。
因みに作家の容姿は気にしないというのは、この前話に出ただけだ。
「…ま、それはおいといて、今度紹介してよ。その…浅田さんを。」
「……いや…それはちょっと……」
「えー?なんでよ。いいじゃないかー。」
「いやぁ、無理だよ……」
「なんで?本もらうくらいなんだから、仲はそんなに悪くないんでしょ?」
「だって……」
「もう、亡くなってるから。」