月曜日。
机の中身がからっぽになっていました。
置きっぱなしにしていた教科書類は、どこにいったのでしょう。
行方がわからないまま、授業が始まってしまいました。
友達がいない私は、そのまま席に着きました。
火曜日。
学校に来ると、机と椅子がありませんでした。
仕方がないので床に座って授業を受けました。
水曜日。
下駄箱に、上履きがありませんでした。
仕方がないので靴下のままで一日過ごしました。
なんだか厭な予感がしました。
木曜日。
ロッカーに入れていた筈の辞書がなくなっていました。
頭の中で、誰かの声が響きます。
『イジメなんじゃない?』
いいえ、違います。そんなことありません。
クラスの皆さんはいい人なのですから。
けれど、本当に?
一瞬だけ疑問符が浮かびます。
私は少し、怖くなりました。
金曜日。
クラスメイトに話し掛けたのですが、無視されてしまいました。
目すら合わせてもらえません。
悲しくて、悲しくて、先生に相談しました。
けれど、まるで相手にしてもらえません。
少しだけ、景色が歪んだ気がしました。
土曜日。
母の啜り泣きが聴こえる部屋。
いつからだったでしょう。母が泣くようになったのは。
普段通り家事をこなしていたと思ったら、突然泣き始めるので、私は大層困惑したものです。
そんな風になってしまったのは、随分前のことのようにも、つい最近のことのようにも思われて、はっきりしません。
何が原因なのかも、わかりません。
訊いても、教えてはくれませんでした。
きっと私は母にとって、邪魔な人間でしかないのでしょう。
その泣き声から逃げるように、ヘッドホンで耳を塞ぎました。
日曜日。
母の泣き声に堪えられず、街に出掛けました。
人の多い街の中でだけは、安心することができました。
知らない顔だらけの街なら、私という個人も隠してくれそうで。
しかし、背後に視線を感じて振り返ると、誰かが私を見ていました。
同じクラスの、狭山さんでした。
彼女はまっすぐ、目を逸らさずにこちらに向かって歩いて来ます。
そして、目の前までやって来た狭山さんは、こう言ったのです。
「あなた、どうしてここにいるの?」
意味がわかりませんでした。
来てはならない所だったのでしょうか。
……それとも、私が目障りだったのでしょうか。
「覚えてない? 先週の金曜日のこと」
金曜日?
そう首を傾げたときでした。
目まぐるしい速さで、あの日の、あの時の光景が駆け巡っていきました。
迫る大型トラック。
右肩に走る衝撃。
崩れる体勢。
大きなタイヤ。
暗転。
そして、すべてを理解したのです。
「…思い出した?」
そうでした。私はもう―――
「金曜日の午後七時。あなたは、助からなかった」
死んだのでした。