カツカツカツ…という足音。
どうやら、つけられていたらしい。
(ったく、懲りねぇな。あいつも。)
足音がするということは、存在を隠すつもりはない、というところか。
(それならいっそ…)
「…おい。コソコソしてないで、出てきたらどうだ?」
そう言い放った。後ろを向かずに。
そして、言ってから気づく。
(……あ、足音が……前より多くねぇか?)
1人、2人どころではない。
少なくとも…10人はいるだろう。
冷や汗が首筋を伝う。
後ろを見ておけばよかった、という後悔をしつつ、それを悟られないようにゆっくりと振り向いた。
「随分と余裕だな。後ろも振り返らずによぉ。…なんだ?この人数見てビビッたのかよ。」
相手方がどっと笑う。
「まさか。ようやく対等くらいになったと思ってたとこだ。」
もちろん、虚勢だ。
だが、今の一言で相手の笑いが静まっていく。
(コケにしやがって、ってとこか?)
そんなことを考える。
「…まあいい。そう言ってられんのも今のうちだぜ。」
言いながら、手に持った鉄パイプをアスファルトに軽く打ち付ける。
後ろにいる奴らも、いろいろとやばそうな物を持っているのが見えた。
「覚悟しろよ、安瀬内 司!!」
安瀬内 司というのは、もちろん俺の名前だ。
相手に名乗った覚えはないんだけどな…
だが、そんなことも言っていられない。
「……チッ…」
相手の鉄パイプが腕を掠める。
どうやら本気らしい。
生憎、こっちは素手だ。
さて、どうするか…
そう考えている間にも、相手は襲い掛かってくる。
釘のついた棍棒を思いっきり振り下ろされた。
(殺す気か? 俺を)
幸い避けれたものの、次は避けられないかもしれない。
「……仕方ねぇ。この方法だけは、取りたくなかったんだがな…」
とか格好つけてみる。
だが、これからやろうとしていることは、決して格好良くなどない。
「ようやく、やる気になったのかよっ!」
鉄パイプを振り回し、じりじりとこちらに近づいてくる。
(まったく、何で俺がこんな目に…)
そう思っている間にも、鉄パイプが襲い掛かってくる。
「避けんじゃねぇ!」
「なら、もう少し上手く振り回したらどうだ?」
挑発してみる。
「んだとてめぇ!ふざけてんのか?」
頭に血が上りやすい奴で助かった。何とかなりそうだ。
さっきの攻撃よりも直線的で、動きが読みやすい。
(もう一押し、くらいか?)
「ほらほらどうした?もう疲れちまったのかよ。情けねぇなぁ。」
「…この野郎っ!」
激昂した相手は鉄パイプを大きく振り上げ、俺を狙う。
しかし、直線的なのは変わらない。避けるのは容易い。
「……下手くそ。」
そう言いながら、相手のいる方とは逆の方向へ走り出す。
「に、逃げたぞ!追えーっ!」
リーダー格の男が言い、追いかけてきたがもう遅い。
俺は足には自信がある。
「……ふう。撒いたか……」
さほど呼吸も乱れず済んだ。
取り敢えず路地裏に駆け込んだが、すぐ一応逃げられるようにはしておく。
相手は本気で殺そうとしている。
俺が何をしたんだ?
…まあいい。だが、ここまで身の危険を感じたのは―――
久しぶりだ。
上着に隠してあったホルスターから昔愛用していた38口径のリボルバーを取り、シリンダーに装填する。
(まさか、使う日が来るとはな…)
そう思いつつ口許が緩むのを感じる。
本当は、この日を待っていたのだから。
「へぇ〜、珍しいの持ってますねぇ。リボルバーの38口径ですか。」
全身が硬直する。
思わず、装填していた手が止まる
この女…いつの間に?
「なるほど。S&Wですかぁ。いいですねぇ。」
「お前…何者だ?」
なんだかどこかで聞いたことのある言い回しだが、気にしない。
「私ですか?安心してください。警察のものではありませんから。」
その言葉に乗るものか。
こんなに銃に詳しい、善良な一般市民があるか。
「まぁ、言ってしまえば通りすがりの女子高生って所ですかね。」
どこを通ってるんだよ。
「格好いいですね。やっぱり本物は。でも、それ……」
「な、なんだ?」
「日本では、銃刀法違反に当たっちゃうのではありませんか?」
(当たり前だろう。どう考えたって、そうなる)
思いはしても、口には出さず。
面倒ごとは御免だ。
「…わかってましたけどね。言っても無駄だって。ですから、実力行使に移ります。」
通りすがりの女子高生(自称)が、にっこり笑ってそう言った。
待て、実力行使って何だよ。おい。
「奪い取る気はありませんよ。…ああ、でも、せっかくですから性能だけでも…」
何やらぶつぶつと危ないことを言っている気がする。
「…そうですね、わかりました。もう少し人気のないところに相手を誘き出しましょう!」
「そんな馬鹿なこと言ってられるか!こっちは命狙われてんだぞ!」
「なら、なおさらいいじゃないですか。何かあったら私も、微力ながら応戦します!」
「微力にも程があるだろうが!このドあほがっ!」
「ど、ドをつけましたね!もう怒りました。お相手に居場所教えてきます!」
「馬鹿なことは止せーっ!」
なんなんだ。この体力の浪費にしかならないアホな会話は。
だが、それにしてもこれでは何を言っても無駄だろうな…
「…仕方ない。人気のないところに誘き出すんだな?」
「えっ、本当にいいんですか?」
「お前が譲らんから仕方なく、だ。」
「お前って…私には南坂 准っていう名前があるんですよ。」
「わかったよ。准でいいな?」
「構いませんよ。司サン。」
「おい、お前なんで俺の名前―――」
そこまで言って、追っ手に見つかる。
なんてタイミングの悪い…
「いたぞ!こっちだ!」
「それではいきましょう!あっちです!」
ああ、主導権握られちまった。
次へ