20xx年某日、大豪邸にて奇妙なパーティーが開かれていた。
目的不明のパーティー
そのパーティーに呼ばれたのは、職業も年齢も、出身学校も違う、1万人の人々。
そして、その招待状。
「『20xx年某日に、とあるパーティーを行います。
なお、パーティー中には楽しいゲームもご用意しております。
あなたの参加をお待ちしております』…か。」
差出人不明の招待状。
文面は全て同じ。
「あなたの招待状も、俺のと同じもののようです。」
「やはり、そうでしたか…」
「ったくよ。みなさん暇だねぇ。こんなことに付き合うなんて。」
「そういうあなたも、でしょう?」
「まあな。」
パーティー会場に集められた人々は、何も知らずにただ雑談を繰り返すだけ。
そんな時、会場の電気が消え、ある1箇所にスポットライトが当てられた。
「皆さま、パーティーにご参加いただき、ありがとうございます。」
スポットライトが当てられた場所に立つ燕尾服の男が、そう言った。
「…あいつが、主催者か?」
「いえ、そうとは限りませんよ。」
「この家の主じゃなさそうだな。」
ざわめきが起こる。
男は少し間をおいて、静まるのを待ち、口を開いた。
「突然の招待にもかかわらず、今日は大勢の方が集まってくださいました。…ここで、当パーティーの目的を申し上げる前に、ひとつ、ゲームを始めたいと思います。参加するかどうかは自由です。」
燕尾服の男が言う。
再びざわめく会場。
「ゲームだと?ふざけるなよ…」
「何を考えてるんだ…?」
「ゲームって…どんなゲームかしら…」
「それでは、ゲームの説明を行います。このゲームはなぞなぞを解き、お宝を手に入れるという、実にシンプルなゲームです。この家に設置された7つのなぞなぞを解けば、宝の場所がわかるシステムです。」
「…宝って何だ?」
1人のサラリーマン風の男が問う。
「時価3億円の、ブルーダイヤモンドです。但し、それはたった1つしかないものなので、優勝者の賞品、ということになります。」
ブルーダイヤモンド。
薄いブルーの、美しきダイヤ。
3億ということであれば、大粒のものだということは容易に想像ができる。
そのダイヤが、ゲームの賞品。
人々は、息を飲んだ。
「なお、このゲームは個人でも団体でも参加可能です。しかし、団体で参加した場合、ブルーダイヤモンドはその団体で1つなので、団体内でどうにかしてくださいね。」
個人で参加すれば、優勝できる確立は低くなるが、賞品は確実に手に入る。
団体で参加すれば、優勝できる確立は高くなるが、賞品は手に入らないかもしれない。
どちらを選ぶのかは、自由。
「それと、館内では携帯電話は使えません。圏外ですから。もし使いたい場合は入り口の電話をお使いください。…何か質問はありませんか?」
1人の女性が手を上げる。
「あの…途中から参加したり、途中で抜けたりするのは、大丈夫なんでしょうか…?」
「構いませんよ。ただ、その時には必ず、受付でそのように伝えてください。…他に質問は?」
今度は老紳士が手を上げる。
「途中で団体から個人に変えることは可能ですかね。」
「できますが、その場合はメンバー全員で受付においでください。個人から団体に変更されるのも同じです。…他には?」
誰も手を上げない。
会場は静まり返っていた。
「わかりました。もし質問があれば、私か、それぞれの場所にいる係員までお尋ねください。
それでは、参加する方は会場奥の受付へ。参加されない方はこちらへどうぞ。受付が終わった方から奥の部屋へ進んでください。全ての方の受付、それから不参加決まりましたら、ゲームの開始をさせていただきます。」
殆どは受付へと流れていった。
その中で2人、興味がないという表情の少女と、面倒くさいという表情の若い男が、燕尾服の男の方へ向かった。
「…お金に目が眩んで、可哀想。…どうせ、主催者に遊ばれてるだけなのに。」
少女が呟く。
「同感だな。あいつらも所詮は金なんだろ。」
若い男が鼻で笑いながら言う。
「…そうだ、あんた、名前は?俺は
若い男が燕尾服の男に向かって言った。
「私は…
「答える必要が、あるの?」
「…いえ。言いたくなければ結構ですよ。」
「じゃあ言わない。…それで、目的は何?優貴さん。」
「……さあ。それは我が主にしかわかりません。」
「…ふうん。じゃあ、帰っていい?暇なんだけど。」
少女がつまらなさそうに言った。
「では、ゲームに間接的に参加するのは、いかがでしょう。」
「なんだよそれ。何するんだよ。」
瀧が口を挟む。
「いえ、主人に頼まれたことの1つに、プレイヤーの誘導役を選ぶ、というのがありまして。」
「それ、どう誘導するかは私の自由なの?」
「ええ。言葉巧みにプレイヤーを翻弄するのも、ヒントを与えるのも自由ですよ。」
燕尾服の男、優貴が笑う。
「………まあ、それなら遊ばれてあげてもいいかな。」
「じゃ、俺も参加で。」
瀧がにっと笑う。
「…あなたも来るの?」
「悪いか?」
「……別に。」
ムスッとした表情をしながら、少女が言う。
「それでは、これをどうぞ。」
すっと、優貴が1冊の薄い冊子を2人に手渡した。
「それにはなぞなぞの答えと、注意事項、ルールなどが書いてあります。それをうまく使って楽しんできてください。」
「わかった。」
「りょーかい。…さて、行きますか。お嬢さん?」
「気持ち悪い。近寄らないで。」
「…手厳しいなぁ。」
瀧が苦笑いを浮かべた頃、ようやく会場には誰もいなくなった。
優貴は隣の部屋に向かう。
「お2人は、先に館内を―――と、その前に。」
ポケットから、王冠型のバッチを取り出す。
そのバッチにはダイヤモンドがあしらわれていた。
「これをつけていてください。誘導役の印になります。」
「…これ、つけなきゃ駄目?」
「わからなくなってしまうので、つけてください。」
ため息をつく少女。
「わかった。つければいいのね。」
「はい。ゲーム終了は午後6時ですので、その時間にはこのホールへ集まってくださいね。」
「はいはい。じゃあ行こうか。お嬢…」
「だから、近寄らないで。」
瀧と少女の2人は、廊下に通じる扉を開け、ホールを後にした。
優貴は隣の部屋へ。
「それでは全員の受付が終わりました。皆さん、もう一度ホールに戻り、お好きな扉の前で待機していてください。」
待ってましたとばかりに飛び出す人々。
走って扉の前に向かう者ばかりだった。
「それでは、ゲーム終了時間の午後6時まで、ゲームをお楽しみください。もし、暴力行為など、他人に危害を加える方がいましたら、その方は賞品を受け取る権利を失いますので、そのつもりでお願いします。それと、館内には誘導役が2人いますので、彼らをどう扱うかによって、このゲームの結果が左右されるでしょう。」
そんなことはどうでもいい、と言いたげな人々の目。
優貴は密かにため息をついた。
「…それでは……開始!」
一斉に開く扉。
一斉に飛び出す人々。
優貴はそれを冷めた目で見ていた。
「瀧、だったっけ。なんでついてくるの?」
「いや、広いからはぐれると大変だと思ってな。」
「そういうところが気持ち悪いっていうのに…」
瀧に聞こえないように悪態をつく少女。
「とにかく、別行動にして。一緒にいられると迷惑だから。」
少女は瀧をにらみつける。
「はいはい。わかったよ、お嬢様。」
そう言って、あっさりとどこかに向かった。
「まったく、何なの?あの人…」
少女の眉間にしわが刻まれる。
変なやつ、と呟いた。
「それで、どうするんだ?受付で紙もらったけど…」
真面目そうな少年が困ったように言う。
「『光る涙を流す女帝に安らぎを与えよ。』…って、意味わかんないよ…」
お手上げ、とばかりにため息をつく少女。
「だから、なぞなぞなんだろ。取り敢えず、館内を歩いてみようよ。」
「わかってるよ。
「何だよくせにって!
言い合う2人。
そのうち、とにかく歩くよ!と言って少女、綺羅が歩き出す。
「それ、僕が言った!」
少年、誠人の声は、当然綺羅には聞き入れられない。
「小学生なめるなー!」
「お、おー!」
そう言ってまた歩きだす。
「…どうやら、これのようね。『光る涙を流す女帝』っていうのは。」
勝気そうな女性が言った。
そこには、目の下に小さなブルーのダイヤがついた、女性の石膏像があった。
「そのようだが…『安らぎを与えよ』というのは、どうすれば……」
眼鏡をかけた男性は手袋をはめ、女性の像のダイヤに触れる。
すると、少し動くような感覚があった。
まるで、スイッチを押すときのような…
「もしかして、これは…」
何度かカチカチカチ、と押す。
するとその周りが浮き上がってきた。
そっとそれをつまみ、はずす。
「それ、逆にして入れればいいんじゃない?」
女性がそう言い、男性はそれに従う。
カチ、という音がして、像の台座の側面の一部が開いた。
「やった!
「…え、えっと…『正解です。残るなぞなぞは、これをあわせて6つです。
第2問、1人が2人、2人が4人、この場所に向かえ。
なお、この紙は元の場所に戻し、像の仕掛けも戻しておくこと。』…だって。」
男性、勝彦が台座に入っていた手紙を読み上げる。
「な〜んだ。簡単じゃん!早く行くよ!勝彦!」
「さ、
「…早く直してよ!」
ムッとしたように女性、沙紀が言う。
「ふわぁぁ…」
瀧は暇だったらしく、大きなあくびをする。
「あー、暇だー。誰も来ねぇ…」
そこでまたあくび。
「ゲームがあるからって思って来てみたけど、結局は金が絡んでるし、だからこっちにしたのにこれはこれで暇だし…あー、マンガ読みてー。」
近くの椅子に座り、背もたれにもたれる。
「ふー……暇だ……」
「…あ、あんた…そこで何してるの?」
「んぁ?…ああ、プレイヤーさんか。どうも、誘導役の木更 瀧だ。」
プレイヤー、沙紀と勝彦に向かって言った。
「あんたが、誘導役……」
沙紀が呟く。瀧は何も言わずにその様子を見ていた。
「…誘導役がここにいるのは、何か意味があるの?」
「さあ。あるかもしれんが、ないかもしれん。」
「……それで、瀧さん。あなたはなぞなぞの答えを知っていますか?」
「ああ。知ってるよ。…教えねぇけどな。」
うっすらと笑みを浮かべる瀧。
「ただ…最後のなぞなぞだけは、俺たちも知らねぇ。」
「それはおそらく、賞品がかかわっているんでしょうね。最後の問題で、ヒントを簡単に与えられては困るから…そういうことでしょう。」
「…どういうことだ?」
「……つまり、最後のなぞなぞなのに、そう簡単に解かれてはいけないから、ということではないでしょうか。と言ったんです。」
「なるほどな。それか俺らは信用できねぇ、ってことか、どっちかだろうな。」
「答えを口走る可能性、ですか?」
「まーな。俺も人間だし。」
「それでは、第2問の答えを口走ることも、あるということですね。」
勝彦が言うが、瀧は答えない。
「…ほっとこ。こんなやつ相手にしてたら、時間なくなるよ。」
「…そういうことで、さようなら、瀧さん。」
立ち去ろうとする2人に、瀧が言う。
「…第2問の答え、だったな。」
2人が勢いよく振り返る。
「お、教えてくれるの?」
「いや、ヒントだ。」
冊子を開く。
第2問のページを見て、ああ、と呟く。
「1つが2つ、2つが4つ、っていう言い換えも可能だ。それと…警告。操作を間違えた場合、トラップが発動する。十分注意すること…だってよ。」
「と、トラップ…?」
「ああ。そう書いてある。さらにあと1つ。」
にやり、と笑う瀧。
「鏡とか、そんな安易なものだと思うか?そっちのお姉さんはそう睨んでるみたいだが。」
「え、何でわかったの?!」
「…そんな誰でもわかるようななぞなぞにするか?」
「う……確かに、そうかも。何か、裏があるの…?」
「さあ。それはお前らが考えることだろ?ヒントはこれで終わりだぜ。」
「……ありがとう。それじゃあ……」
立ち去る2人。
沙紀が、また振り出しだ…と呟く。
瀧はそれを聞いて、2人に聞こえないように独り言を言った。
「悪く思うなよ、お2人さん。本当は合ってるんだが…プレイヤーを翻弄するのもよしとされてるからな。」
ま、嘘はついてねぇけどな、と言う。
言ったことといえば、
『鏡とか、そんな安易なものだと思うか?』
『そんな誰でもわかるようななぞなぞにするか?』
の2つ。
だが、答えを知る誘導役が言うことで、それは大きな疑問となり、違うのではないか、と思わせる。
心理作戦、といったところだ。
「…さて、あのお嬢さんはどうしてるかな…」