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「それから僕たちは、このゲームのプレイヤーを選び始めました。呉羽様…いや、呉羽さんは秋飛さえプレイヤーに含めておけばいいと考えていたようでしたから、僕たちが計画を進めるのは簡単なことでした。
あとは誰をプレイヤーに選ぶか。それだけでした」
「……咲弥さん」
私は小さく、目の前で語る人物の名を呼んだ。
「これが……あなたの望んだことなんですか…?」
「…ええ。これで、僕らは昔のような…平穏な日々が送れるんですから…」
す、と手に持った拳銃を、呉羽に向ける。
しかし、当の呉羽は微動だにしなかった。
それどころか、不敵な笑みさえ浮かべていた。
「…何が、おかしいんです?」
「おかしくはない。ただ……」
にい、と呉羽の唇が弧を描く。
「残念だが、さよならだ」
ぱん。
「なっ……?!」
ぐらり、と大きく咲弥さんの身体が傾く。
見ると、太腿の辺りからどくどくと血が流れていた。
ばっと呉羽の方を見るが、武器らしいものを持っている様子はない。
「一体どこから…?」
「ここですよ、雪野さん」
きい、と扉が開き、笑みを浮かべた少女の姿が現れた。
「……あ、文乃…ちゃん?」
「はい」
にっこりと、無邪気に笑う。
その手には二挺の拳銃。
そして足許には、大きなマシンガン。
肩に掛けていたランドセルは銃弾の帯になっていた。
年端もいかぬ少女が持つには、不釣合いなものばかりだった。
「な、何…持ってるの? それ……あ、危ないよ…?」
「これですか? 平気ですよ、いつも使ってますから」
「い、いつもって……」
一方の拳銃をホルスターにしまい、もう片方の拳銃を指差して微笑む。
「これはトカレフTT-33。残念ながらソ連のものではなく、中国製ですけれどなかなか良い品です。暴発もありませんし。
こっちはMG42。ドイツ製のマシンガンです。本当はあたし、『ヒトラーの電動のこぎり』って言うくらいだから、これでドアを破壊してみたかったんですけど、それはダメだって――」
「さっきから何をしているんだ、お前は」
そう呉羽が静かに咎める。
そしてゆっくりと車椅子を動かし、文乃ちゃんの方へ行く。
「な、何を…!」
「頭を狙えと言っただろう。何故太腿を狙ったのだ」
「!?」
どういうこと?
頭を狙え?
いや、それ以前にどうして文乃ちゃんがあんなものを……
そう思ったときだった。
「でもおじい様、彼にも、最後の物語を聞く権利はあるのではないですか?」
お、おじい様……?
文乃ちゃんの…?
……ということは、呉羽さんの孫が、文乃ちゃん……!?
「…ふむ、それもそうだ。あの男の息子とはいえ、どうせ残されたのは最後の物語のみ。聞く権利ぐらいはやっても良かろう」
「有難うございます、おじい様」
「ちょ、ちょっと待てよ! お前……こいつの、呉羽さんの孫だったのか…?!」
吾九汰くんが叫ぶ。多分、私と同じで混乱してるんだろうな……
「そうですよ。凄く今更な気もしますが」
「お、お前だけだろそんな気がしてる奴は! 俺たちは殆ど混乱してるんだよ!」
「たち、と言っても……」
ちら、と周りを見て、視線を戻す。
「お一人だけでしょう?」
「え?」
ふふ、と文乃ちゃんは笑って、呉羽さんの後ろにまわった。
黒く大きな鉄の塊を持って。
「さて、それじゃあそろそろ、このゲームのすべてをお教えしましょう」
そう少女は無邪気に微笑んだ。