「このゲームでは、すべての人間にそれぞれの『役』が振られています。まず……
『主催者』がおじい様、呉羽 時重。
『第一の被害者』が谷角 秀晃。
『第二の被害者』は空席。咲弥さんは亡くなっていませんからね。
『第三の被害者』が和泉 蒼夜。
そして…………ここからが、このゲームの裏側です。
『殺人者』兼『企画者』があたし、岸 文乃。
『復讐者』が、和泉 咲弥と白雷。
『ゲーム最後の被害者』が、久遠寺 秋飛。
それから……ここからが、あなたがまだ知らないであろう事実です。
『第四の被害者』、宝城 明。
『もう一人の復讐者』、吾九汰 冬佳。
そして……『観察者』、雪野 美優」
「え………!?」
どういうことなのか、わからなかった。
『役』とは、どういうことなのか。
『もう一人の復讐者』とは。
そして、『観察者』とは。
「わからない、という顔ですね。まぁ、当然でしょうけど。安心してくださいね、あたしが今から、すべてを明かして差し上げます」
あどけない、少女の笑みを浮かべる文乃ちゃん。
私はただ、息を呑むことしかできなかった。
「あたしがここへ来るとき、当然のことではありますが、宝城さんに止められたんですよ。一人で行くのは危ない、ここで待つんだってね」
窓の外を眺めながら、寂しげに言う。
「少し、嬉しかったんですよ。あたしのことを心配してくれる人が、おじい様以外にもいるんだって。
でも……このゲームの結末を迎えるには、彼は邪魔だったんです。あたしがおじい様のもとに行かなきゃ、このゲームは崩壊し、破綻してしまうから。
だから、スタンガンで気絶させてから、あたしがこの手で殺したということを忘れないように……ロープで首を絞めたんです」
おじい様以外にも。
その言葉を聞いて、私は初めて、文乃ちゃんの家族のことを考えた。
彼女が一体、どんな気持ちでこのゲームを始めたのか。
それをやっと、考えることができた。
かすかに震える腕を押さえて、文乃ちゃんは振り返る。
「もう…殺すつもりはなかったんですけどね……でも、仕方なかった。だから殺したんです」
陰のある笑顔で、私を見た。
「こうして、『第四の殺人』は行われました。次は、吾九汰さんの話をしましょう」
ふる、と軽く頭を振って、文乃ちゃんは『企画者』の表情になる。
そして、名指しされた吾九汰くんは……暗い表情をしていた。
「まだ、あの時のことは覚えていますよ。……あたしはまだ5歳か6歳でしたけど、はっきり覚えてます。
忘れる訳、ないですよね? ………海蓮さん」
「……か、かい…れん?」
思わず、私は吾九汰くんを見る。
しかし当の吾九汰くんは、私を見ようとはせず、俯くだけだった。
「ちょ…ちょっと待って文乃ちゃん。海蓮って確か……」
「そう、咲弥さんや白雷さんと共に働いていた、親の借金を支払う為にこの屋敷に連れてこられた人物です。それが…彼、吾九汰さんなんですよ」
吾九汰くんは何も言わずに、ただ歯噛みしていた。
「余計なことを、という顔ですね。まぁ、あたしが言わなければ雪野さんは知らずに済んだでしょうからね。
雪野さん、いいですか? あなたは、本当はこのゲームの参加者として選ばれた訳ではなかったんです。あなたと海蓮――吾九汰さんが親しいと知って、咲弥さんと白雷が選んだに過ぎなかったんですよ。
あなたはあなたの意思で吾九汰さんを連れてきたと思っていたかもしれませんが、そうではなかったのです。
それどころか、あなたは吾九汰さんに騙されていたんですよ!」
「岸! てめぇ……!」
「否定できますか? あたしの言ったことを」
「……!!」
「あなたは手紙を読んで、地図を見たときからわかっていた筈ですよ。あの地図が、ここを指している事を。そしてここに着いた時、予測できていたのではないですか? すべてではなくとも、これが何の為に行われるゲームなのか」
苦虫を噛み潰したような表情で、吾九汰くんは文乃ちゃんから目をそらした。
「…ほら、何も言えないでしょう? それこそが、あたしの言ったことが事実だという裏付けになるのではないですか?」
吾九汰くんは、何も言わなかった。
ただ怒りに震え、俯くだけだった。
それを見た文乃ちゃんが、得意げに笑う。
「これが、このゲームの一部始終です。…雪野さん、あなたはずっと、吾九汰さんに騙されていたんですよ」
「騙してたわけじゃない! ……ただ、言えなかったんだ」
「故意に隠していたのなら、騙したも同然じゃないですか」
「…………っ」
顔をしかめ、吾九汰くんは顔を背けた。
私はそれを、複雑な心境で見ていた。
でもこれで一つ納得できた。
どうして、混乱しているのが「一人」だけだったのか。
私以外の全員が、呉羽さんの関係者だったからなんだ。
だから第三者的な目線から、ゲームを眺めていた私が、『観察者』だったんだ。
私は静かに目を閉じ、ひとつ息をついてから目を開いた。
「ひとつだけ、聞かせてくれる? 文乃ちゃん」
「なんでしょう?」
「あなたはどうして…こんなゲームをしようと思ったの?」
そこだけが、どうしてもわからなかった。
ゲームをしようと言ったのは文乃ちゃんの筈なのに、その理由が見つからないのだ。
「……それじゃあ、聞いてくれますか」
かつ、と文乃ちゃんは一人、窓の方へと向かう。
そして私たちに背を向けたまま、彼女は静かにこう言った。
「あたしの、最後の物語を」