「ははは!馬鹿かお前ら。追い詰められちまってよ。これじゃ袋の狸だぜ。」

    「馬鹿はお前だろうが馬鹿。それを言うなら袋の狐だ。」

    「司さん。ネズミです。」

    気にすんな。

    「ま、そんなことはどうでもいいんだよ。それより、お嬢ちゃん。早く帰ったほうが身のためだぜ?」

    相手がそう言うと、准がこちらを振り返る。

    そして小声で、「リボルバー」と言う。

    再びホルスターから出し、相手にわからないように、そっと准に持たせた。

    すると准はリボルバーをくるくると回し、相手に向け、躊躇うことなくトリガーを引いた。

    パン、パン、パン。と乾いた銃声が響いた。倒れた奴がいないところを見ると、どうやら地面に向かって撃ったらしい。

    残り2発。

    「なっ…何でそんな物…!」

    当然だろう。何の害もなさそうな通りすがりの女子高生(自称)が拳銃なんて持っているはずがない。

    そう思う。俺も。

    「ん〜。なんとも言えないこの撃ち味。いいですねぇ。随分撃ちやすいですし。」

    「つ、司、もしかしてお前のか?!」

    何を驚いている。

    「当然だ。俺の昔の愛用品だ。あんまり無駄撃ちするなよ。」

    「はーい。じゃ、お返しします。」

    え、それだけ?

    「まさか、お前。本当に撃ってみたかっただけなのか?」

    「ええ。そうですよ。一度本物で撃ってみたかったんです。」

    め、眩暈がする…

    「…さて、そろそろいいかな?お嬢ちゃん。」

    まずい。このままでは准も巻き込みかねない。

    「准!早く逃げ―――」

    ドサッ。

    「……え?」

    「ほら、ぼうっとしてないで手伝ってください。もちろん、銃は使わないでくださいね。」

    にっこりと笑う。

    リーダー格をあっさりと倒して。

    (……ちょ、ちょっと待て。何かがおかしい。どうなっているんだ?)

    「じゅ、准って…ま、まさかあなたは……南坂 准さん、ですか……?」

    「そうですよ。」

    「な、なんだ?」

    突然、相手の腰が低くなった。

    「す、すみませんでしたっ!南坂さんとは露知らずっ!」

    「ど、どうかお許しをっ!」

    ははー、という感じだ。

    一体何者だ?こいつは。

    「まぁ、構いませんよ。司さんも何とか無事でしたし。」

    「あ、ありがとうございます!」

    「但し。次は容赦致しませんので。そのつもりで。」

    「は、はいっ!失礼しましたーっ!」

    リーダー格を抱えて、走って逃げて行く。

    「…さて、司さん。この度は巻き込んですみませんでした。」

    「え、どういうことだ?」

    「少し、長くなってしまうのですが…構いませんか?」

    「ああ。事情のほうが気になる。」

    「では、お言葉に甘えて。」



    さて。

    俺の話を交えて、これまでの話の事情を要約するとしよう。

    まず、今までのことからわかっている人もいるだろうが、俺は数年前までこの地区の頭、つまり長のようなものをしていた。

    とある事情(いわゆるトラブル)で俺は頭をやめ、「普通の」一般市民となった。

    リボルバー…拳銃を持っていたのも、かつての頭ということで地区の奴らから狙われる可能性があったからなのだ。

    そして、准。

    あいつは現在の頭の一人娘というやつで、女子高生と言う点では准の言っていたことは正しいが、「普通の」ではない。

    その強さは現在の頭である父親の強さに通ずるものがある。

    それから、俺が襲われた理由。

    相手はこの地区の連中で、現在の頭からなにやら冗談を言われたらしく、そしてそれを鵜呑みにしてしまったらしい。

    その冗談の内容は「この地区の元頭は全国制覇まであと一歩と言うところまで行き、その強さは100人相手でも敵わない」というようなことだったとか。

    まったく、いい迷惑だ。



    「本当に、すみませんでした。父が妙なことを…」

    「いや、構わんさ。まあ、前に2回ほど襲撃を受けた理由もわかったことだし。」

    「…でも、本当にお強いのですね。最初に仲間の一人が吹っ飛ばされたのを見たときは、目を疑いました。」

    「なんだ。俺のこと父親から聞いてねぇのか?」

    「いえ、聞いてましたけど。女性とは思っていなかったので…」

    「そうか。まあどっちでもいいけどな。」

    本当は、自己紹介でもするべきだったのだろうな。

    まあ、追われてばかりでそんな暇はなかったが。

    今准から明かされたとおり、俺は女だ。

    見る人によっては、男とも女ともとれる顔つき、身長、髪型なので、親にもたまにどうにかしろと言われるのだが、別にどうでもいい。

    まあ、そういうことなのだ。

    「それじゃあ、お詫びにひとつだけ、お願いを聞きましょう。」

    「…そうだな……それじゃあ―――」



    コーヒーを一杯、奢ってくれ。

    俺にはそれで十分だ。