司祭は、すべての眼球に祝福を授ける者として存在する。眼球を持つ者に、そして虚ろなる眼窩を持つ者に、真実が宿るよう祈りを捧げる、それが司祭の役割である。
司祭の日課として、午前6時、正午、午後6時の3回、必ず教会の鐘を鳴らす。午前6時半に、我らをつくりたもうた神に対する祈りをささげ、その身を清める。祈りを捧げる際の手順は、次項にて詳細を述べる。
病に伏すものがいれば、そこに赴き聖油を塗布する。村で死者が出れば、死者の魂とその眼球を清めて一定期間保管し手厚く葬る。
村で行われる二度の祭、2月4日の「夜眼祭(やがんさい)」、6月10日の「天盲祭(てんもうさい)」は司祭と八純家で、その準備と片付けを行う。夜眼祭では全員分の目隠しの布を、天盲祭ではランタンと蝋燭、目隠しの布を用意し、教会の裏手に祭壇を築く。
夜眼祭は想二様の失明の日を、天盲祭は想二様が「この世ならざるもの」と「未来」をその眼に映すようになった日を表している。暗闇と怪奇の世界に生きた彼の世界を再現することが、我々に課せられた使命なのである。
八純家の預言者の救済も司祭の仕事となる。かの預言者は地下の眠りの中におり、その未来を問えば静かに先を指し示すだろう。しかしかの者はその力ゆえ、決して長くは生きられない。そのため、その命を全うした先代の預言者を、我々司祭が救済するのである。預言者の存在は村の者に明かしてはならない。余計な混乱を招くばかりで、なんの利益にもならないだろう。そのため、すべては極秘裏に、深夜に行われる。前日には、井戸から汲み上げた水を月光の下に晒し、その水で身を清めておく。神聖なる夜の時間に、教会の小道を使って八純家に向かい、当主から地下牢の鍵を受け取り、預言者を連れて最奥の間へと向かう。最奥の間のレンガの壁に書かれた指示に従い、かの者を救済する。その地下の夜の中の深海の向こうに、巨大なレンガ造りの壁へと通じる小道がある。壁の向こうには、イゴールナクがいる。ぼろをまとった目のない闇の怪物がイゴールナクに仕えている。もう長い間、イゴールナクは壁の向こうで眠っている。レンガを乗り越えてそこに入り、眠るイゴールナクの体の上を横断する者がいても、それがイゴールナクだとは気がつかないであろう。しかし、彼の名を口にしたり、書き物の中にある彼の名を読んだりすれば、彼はやってくる。礼拝されるために、あるいは食うためにやってくる。自分が食う相手の姿と魂を乗っ取るのである。書き物の中にある邪悪な事柄を読んだり、心の中で彼らの姿を求めたりする者がいれば、邪悪を呼び起こすことになる。イゴールナクが再び人間どもの間を歩き回ることになる。歩き回りつつ、彼はあの日を待つのである。地球から人間が一掃され、クトゥルフが海藻の中の墓場からふたたび立ち上がる日を、グラーキがクリスタル製の落し戸を押し開ける日を、アイホートの子が日の光の中へと生まれ出る日を、シュブ=ニグラスが月のレンズを砕くために進み出る日を、ビヤーティスがその牢獄から飛び出てくる日を、ダオロスが幻影を引きちぎり、その陰に隠されていた現実をあらわにする日を、彼は待つ。
次の司祭の選定は、通常預言者の救済の前に行う。司祭にふさわしいと思われる者の名を御神体に刻み、後述の礼拝の手順を踏む。預言者を救済した後、保管庫に預言者の眼球の1つを御神体に捧げる。御神体に刻まれた名の者が司祭にふさわしい人間であれば、神からのメッセージを受けることができるだろう。