「…それで、本物を見ちゃった感想は?」
「感想、なぁ…」
夜の学校。
不気味な歌。
黒衣の少女。
意味深な言葉。
「…ホラーだな」
「ホラーねぇ…」
確かにそうかもなぁ、と呟く哉井。
「……あ、そういや訊くの忘れてたけど、そもそもなんで夜に学校来てんの?」
…………
こいつは……
仕方なく、俺は昨日の出来事を最初から説明した。
…というか、最初からこうすれば早かったのでは……
「へーえ、それじゃその娘は消えちゃったと?」
「信じられなければ信じなくていい。世迷い言だと切り捨ててくれて構わんさ」
「いや、信じるよ。桐さんがそんな嘘をつくとは思えないし。大体桐さんそういう噂嫌いじゃん」
ありえない、と切り捨てられる覚悟もしていたのだが、哉井は笑ってそう言った。
そう言ってくれた。
それだけで少し楽になってしまう自分は、本当に単純なのだと思う。
「ま、消えちゃったと。そんで桐さんは狐に馬鹿にされたような気分で帰った、ってとこか」
「つままれた、な」
せめて化かされた、くらいにしてほしい。
狐に馬鹿にされたって、どんなシュールな光景なんだよ。
「哉くん桐くん、おはよー」
「あ、仁紀さん、おはよ!」
「…おはよう」
同じく十年来の付き合いになる、
よく言えばおっとりとした、悪く言えばうっかり屋の、危なっかしいやつ。
「朝から仲いいねー、相変わらず」
「あ、聞いてよ仁紀さん。桐さんが『黒衣の少女』見たんだって!」
…………
また同じ話をしなければならないのか、俺は。
はぁ、と密かにため息をついた。
「…という訳だ」
「…なんか桐くん、疲れてる?」
「別に、そういう訳では…」
「うーん…ならいいけど」
「ほら、桐さん本の虫だから、話しすぎて疲れたんだよ。きっとさ」
たまにはパーッと遊ばないとー、と腕をとられる。
本の虫、か。
……なかなか、いい響きじゃないか。
「悪いが哉井、今日は無理だぞ」
「え、なんか用事?」
「ああ、まあな」
そうお茶を濁して流そうとしたのだが、甘かった。
まさか、と哉井が詰め寄ってくる。
「桐さん。また夜に学校に来るつもりだろ」
「……なんでわかった」
「何年親友やってると思ってるのさ。それくらいお見通しだ」
「哉井……」
哉井を見る。やつは得意げに微笑んでいた。
「何度も言うが、お前は悪友だ」
「酷いなー、桐さんは」
快活に笑う哉井。
凹んでいる様子はない。
「で、行くなら行くで、俺たちも連れてけよ。つーか連れて行きなさい」
「なんで命令形なんだよ」
「そうじゃないと桐さんは一人で行くだろーが」
行動パターンまでお見通しか。
仕方ない、と言わんばかりにため息をついて、俺は言った。
「わかった。それじゃあ10時に学校前に集合だ」
「ちょい待ち。桐さんは昨日忘れ物したって言って入らせてもらったんだろ? 3人で忘れ物したって言うのかよ」
「まあ、任せとけ。考えがある」