翌日。
「桐さん、おはよー……」
春の訪れを感じる天気とは裏腹に、消え入りそうな声で、哉井が声をかけてきた。
一瞬昨日がお通夜だったのかと思ったが、昨日は3人で学校に行ったのだと思い直す。
「どうした、親族が亡くなったみたいな顔をして」
「縁起でもないこと言うなよー…」
はあー、と大きくあからさまなため息をつく。
「…もしかして、昨日会えなかったから、とか言わ」
「そうだよっ! なんで桐さん一人のときは会えるのに俺がついて行った途端に会えなくなっちまうんだよ! ああもうっ! 妬けるぜ桐さん。俺だって美女に御目にかかりた」
「取り敢えず落ち着け」
自棄気味になるとマシンガントークが始まるのは、幼い頃からの付き合いでよく知っている。
……そんなに残念に思っていたのか。こいつ。
「おはよー哉くん桐くん。相変わらず仲が」
「おはよう仁紀さんっ!」
「だから落ち着けって」
古垣の台詞まで切るとは…相当らしいな。どうやら。
「ど、どしたの? 哉くん…」
「昨日、『黒衣の少女』に会えなかったのが相当ショックだったらしい」
「え……?」
一瞬不思議そうな表情をして、ハッとしたかと思うと、納得したらしく何度も頷いた。
多分、呪いのことを忘れていたのだろう。
「そっか、で、でも私は会えなくてちょっとほっとしたかもー……なんて」
あまり無茶をするな。古垣、お前は嘘が苦手なんだから。
「だって仁紀さん! 桐さんは会えてるんだぜ!?」
「いやぁ…た、体調が悪かったんじゃないかな?」
「相手は都市伝説なんだから、体調とか言ってらんねぇよ!」
「あー……うー…ん…」
「もういいだろう。仁紀に八つ当たりするな」
これ以上は、ぼろが出る。
「…わかったよ」
拗ねたように口を尖らせて、そっぽを向く。
…小学生か、お前は。
「おいおい、痴話ゲンカか? お二人さん」
「あ、聞いてよみっきー。桐さんがさー」
同じクラスの
お調子者で、ムードメーカーでもある。通称「みっきー」。
その明るさが、時に羨ましい。
「へーえ、桐褄が『黒衣の少女』にねぇ」
「おい、哉井…」
「わかってるって! みっきー、このことはどうか内密に☆」
「おう! 公害法度ってやつだな!」
「口外法度だ」
まったく、ノリのいいやつらだ。
「ふーん……じゃ、俺も今夜行ってみようかな」
「やめとけ幹藤。会っても良いことはない」
「いやだってさ、哉井が美女だって言うなら、行くしかねぇだろ!」
言っておくが、哉井は見ていないぞ。
「それに、桐褄が会えたんだから、会えるかもしれねぇし」
……駄目だ。こいつは俺がなんと言おうと行くつもりだ。
仕方ないとばかりにため息をついて、諦めを込めた目で幹藤を見る。
「どうなっても、俺は責任を取らないからな」
「わーってるって!」
にっ、と笑って見せる幹藤。
その時、教室の扉が開いた。
「全員席に着けー。ホームルーム始めるぞー」
担任の気だるそうな声を聞き、席に着く生徒たち。
その時俺はまだ知らなかった。
その夜、何が起こるか、なんて。