少女は、小学生コンビと話していた。
「あんた、答え知ってるんでしょ?教えなさいよ。」
綺羅が叫ぶ。
「……うるさいやつに提供する情報なんてない。」
少女の眉間にしわ。
「何それ!あったまきた!ちょっとあんた名前は?!」
「教える義務はないし、そっちに知る権利もない。」
「何よそれっ!!ほんと、何様のつもりだっ!」
「お嬢様。」
しれっと言う少女。
「なっ…………!ふざけるなっ!」
「事実ですから。」
「綺羅、落ち着いて…」
「うるさいっ!誠人のくせにっ!」
綺羅が睨む。
しかし、誠人に怯む様子はない。
「落ち着けよ。こんなところで油売ってどうするんだよ。」
強い口調で言う誠人。
綺羅は押し黙った。
「すみません。綺羅が怒鳴って。」
「別に。」
「それで、あなたは…」
「私は誘導役。だけど、私の言うこと全てが本当とは限らない。」
「え…」
「まったく見当違いの方に誘導する可能性もある、ってこと。」
誘導役だから、と少女は付け加える。
「…わかった。じゃあ、ヒント教えてよ。」
綺羅は、先ほどの様子とは打って変わって、落ち着いたようだった。
「いいよ。」
「え。さっきは教えてくれなかったのに…」
「あれは答えを教えろって言われたから。第1問のヒントは、『石膏像』。よくある白い像のこと。それから、『ダイヤモンド』。以上。」
「少なっ!」
「館内を歩けばそれだけでわかる。早く行って。」
『あー、優貴ですが、聞こえますか?』
どこかから、あの燕尾服の男の声。
「優貴さん。バッチですか?」
『正解です。マイクとスピーカーを内蔵してあります。瀧さんとも連絡できますよ。』
『おお、優貴か。ビックリさせるなよ…』
瀧の驚いたような声。
あの男ともつながっているらしい。
『それで、現状報告です。3問目のなぞなぞまでたどり着いたのが1組、2問目のなぞなぞまでたどり着いたのが大勢、1問目から進展なしが1組です。』
目の前の小学生コンビを見る少女。
「…今の、聞こえた?」
頷く2人。
「…早く行って。」
「あ、ありがと…」
猛ダッシュで廊下を進んでいった。
ホールでは、優貴が1人紅茶を飲んでいた。
「ああ…主人にも飲んでいただきたいところですが…私が行けば、主人の場所がばれてしまいますよね……どうしましょうか。」
小さく、ため息をつく。
そして、机に置かれたノートPCを見る。
館内にはトイレ以外の全ての場所にカメラが設置されている。
なぞなぞの問題が置かれている場所にもあるので、現状を知るのは容易い。
モニターに映し出されている映像の1つを、優貴は見ていた。
誘導役の、瀧。
「キサラ、タキ…何か、引っかかるんですよね……」
うーん、とうなる優貴。
「ただの、気のせいならいいんですが…」
「何なの?あの瀧ってやつ!最初に私が睨んだとおり、鏡で合ってたじゃない!」
沙紀が腹立たしげに言う。
勝彦はそれをなだめながら呟いた。
「…でも、嘘は言ってないんだよな、あの人。」
「…確かに、違うんじゃないか、って思わせるようなことは言ってたけど……」
「誘導役って言うのは、いい方ばかりに誘導するわけではないみたいだね。」
「そうみたい。全部鵜呑みにしてたらこっちが痛い目にあうってことね。」
「まあ、トラップは本当だったみたいだけど。」
ついさっき二人がいた方から、悲鳴が聞こえる。
「…命にかかわるようなトラップとか、ないでしょうね…」
「ない、と思うけど…油断はしないほうがいいだろうな。」
はあ、とため息をつく沙紀。
「もう、誘導役にヒントをもらうのはやめておこうよ。また変に誘導されたらたまんないもん。」
「………でも、あの司会者…『誘導役をどう扱うかによって、ゲームの結果が左右される』って言ってたけど…」
「できる限り、だよ。何かあるのかもしれないけどね。」
「…やったー!2問目みっけ!」
「簡単なものでありますようにー……!」
小学生コンビがようやく1問目をクリアする。
紙を広げ、読んでいく。
「あっ!わかった!」
「僕も!あ、じゃあ2人で一緒に言おうよ。」
せーのっ、と誠人が言う。
「影ぶんしん!」
「鏡!」
言った瞬間に、お互いを見る2人。
「え…影ぶんしん、って言った?綺羅…」
「え、えぇ?い、言ってないよ?鏡って言ったの聞き間違えたの?」
白々しくとぼける綺羅。
視線が明後日の方向になる。
「え……ま、まあ、いいや…じゃあ、鏡探しに行こうか。」
「お、おー!」
「ありがとなー!」
何も知らずに御礼を言って去っていく、男性。
「いや、俺は誘導役として当然のことをしただけだ。」
笑顔で見送る瀧。
「…さて、あの人が戻ってくる前に、移動しておくか。」
そそくさと移動を始める。
「まさか、勝手に鏡じゃないと思い込んでくれるとは…」
沙紀たちにやったことを、繰り返しただけだったのだが、効果は十分だったようだ。
「ま、嘘は言ってねぇし。」
廊下を進んでいくと、あの少女の姿があった。
「おお、お嬢さん。暇か?」
「……うわぁ……」
あからさまに顔をしかめる少女。
「そ、そこまで嫌なのかよ…」
「嫌じゃなかったら、こんな顔しない。」
即答だった。
「…まぁ、いいや。……そういえば、お嬢さん。幾つなんだ?」
「中学2年。14歳。」
「へぇ…もう少し若いかと思ってたんだが…」
「悪かったね。老けてて。」
「あ、いや…そういうつもりじゃ…」
顔を背ける少女。
表情は、元に戻っている。
「瀧。何で参加しなかったの?」
「そう言うお嬢さんは?」
「私は……もともと、来るつもりはなかったんだけど…父さんが、このパーティーのことよく知ってたみたいで、行ってきなさいって。」
「なるほど。で、どんなパーティーなのかは聞いたのか?」
少女は首を振る。
「ただ…どうして、招待状が届いたのか、それだけは教えてくれた…」
「な、なんだったんだ?」
沈黙。
「話したくない、か?」
少女は小さく頷く。
「…………」
無言のまま、立ち上がる少女。
「優貴さんのとこ、行ってくる…」
そう言って、走っていってしまった。
「『第7問 これが最後の問題です。
この答えの先に、宝…ブルーダイヤモンドがあります。
「切り札」、「貨幣」、「カエサル」。
最後の扉は開かない。
知者はカエサルに願い、受け入れられれば扉は開く。
愚者はピエロに乞い、そして落ちる。
最後の扉は六花が知っている。
幸運を祈ります。』…」
「これが、最後の問題…」
沙紀が、呟いた。
「意味がわかんない!何なの?つか「切り札」とか何?!」
「…喚くなよ…ここがばれるぞ。」
そう言われて、黙る沙紀。
「取り敢えず、携帯で撮ったから、ここから離れよう。」
「うう…わかったよ…」
見つけた場所から離れるため、取り敢えずホールに向かう。
そこで、バッチをつけた少女に会った。
「あら、きれいなバッチつけてるね。」
「あなたが、7問目を見つけた方?」
少女は訊く。
「え、ええ…そうだけど。」
「見せてもらえる?私、誘導役なんだけど、最後の問題だけわからなくて…」
「…本当に、誘導役?」
「うん。何なら、あの司会者に連絡とって見せようか?」
「……そこまで言うなら、いいよ。見せてあげる。」
沙紀は少女に携帯の画面を見せる。
それを見た少女は、ここに来て初めて、笑みを浮かべた。
「ありがとう。お姉さん。おかげで、全部わかっちゃった。」
「えっ!?それ、どういうこと…」
「ついてきて。今ならまだ、間に合うから……」
少女はそう言って、走り出す。
向かう先は―――ホール。