*
今、選択を迫られた。
殺るか、殺られるか。
ふたつにひとつのその選択。
綿密な計画。
繰り返された検算。
導き出された、唯一の方程式。
あとはただ。
実行するか、否か。
わずかに震える手を握りしめ、
今。
「賽は投げられた」
*
広間でぼうっとしていると、吾九汰くんがやってきた。
「おはよー……って、もしかして、寝てない…?」
目の下にはくまができてるし、なんだか覇気もない。
この状況では寝ていなくても不思議ではなかった。
「…あー……まあな。それより今日は早いんだな。まだ寝てるかと思った」
「そりゃあ……こんなことになっちゃったし…ね」
そう苦笑すると、それもそうか、と吾九汰くんは力なく笑った。
程なくして、明くん、文乃ちゃんが広間の扉を開け、
しばらくすると秋飛ちゃんが、静かに広間に来た。
――沈痛な面持ちで。
「和泉蒼夜の姿が何処にもない。部屋には和泉蒼夜の代わりにこのカードが置かれていた」
広間の中央のテーブルに、ぱさりとカードが放られる。
そこに綴られていたのは、あの忌々しい文章だった。
『第三の被害者 刺』
「またかよ……」
「ベッドの上に、大量の血痕があった。……とても無事とは思えない」
「そんな……」
事務的な、秋飛ちゃんの声。
それとは裏腹に、表情にはかすかに悲しげな色が浮かんでいる。
「ま、まさか、『お館様』を殺そうとしたから…逆に殺されてしまったんじゃ、ないですよね……?」
怯えたように、文乃ちゃんが言う。
「わからない。けれど先手を打たれた可能性はなくはない」
秋飛ちゃんがそう答えた瞬間のことだった。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
「なに、これ……鐘の音?」
「でも、今6時37分ですよ…?」
広間の時計が指す時刻は、確かに6時37分だった。
ただ単に時計がずれているだけなのか、それとも…何か理由があるのか。
「それに、昨日は一度も鐘なんて鳴ってなかったし…」
「あ、『皆さん起きてください!』っていう合図でしょうか!」
「それは違いますよ」
「あ、白雷さん」
いつの間にか文乃ちゃんの後ろには白雷が立っていた。
…なんというか、神出鬼没だ。
「私たち使用人は、当番制で館内の見回りを行っているので、起きる時間も寝る時間もバラバラなんです。ですから、もう何年も前から時計塔の鐘は鳴らしていないのですが……」
おかしいですね、と白雷は首をかしげた。
「何か不具合があったのかもしれません。制御室を確認してきます」
そう言ってどこかへと去っていった。
さっきの鐘の音が頭の中で蘇り、不安になる。
あの、初めて招待状を見たときのような嫌な予感が私の心を満たしていった。
そして、これがすべての終わりを知らせる鐘であったということを、このときの私は知らなかった。