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私は、吾九汰くんと二人で館内を調べていた。
あんな追加ルールを出すくらいなのだから、主催者は隠し部屋にいるのでは、という吾九汰くんの考えから、私は室内を隈なく見てまわり、吾九汰くんは館内の地図を作成することにしたのだった。
今は広間の隣の部屋を調べている。
広間に比べれば少し手狭なこの部屋も、一般的にはかなりの広さだ。
しかし、それにしても。
「…………」
「…………」
お互い、少しも喋らない。
黙々と作業をする吾九汰くんを見ると、話しかけるのも憚られる。
急がないといけないのはわかってる。わかってるけど……
…気まずい。
何か、話すことでもあればいいんだけど、こういうときに限って何も思いつかない。
ちらりと吾九汰くんの方を盗み見る。
さっきからずっと、吾九汰くんは部屋を行ったり来たりしている。
多分部屋の広さを測ってるんだろう。
目で見るよりは正確なんだと思う。
けど……
「あ、吾九汰くん?」
「…………」
「お、おーい」
「…………」
集中しすぎて、ちょっと怖い。
話しかけても返事してくれないとは…
はあ、と小さくため息をついて、作業を再開する。
この分じゃあ、何を言っても無駄だろうなぁ……
壁を見つめるのに飽きてきた私は、ぺたぺたと壁に触れながら、異常がないかを確認する。
壁紙にも切れ目はないし、正直、こういう単純作業は疲れる。
「…吾九汰くん」
返事がないのを前提に話しかける。
この部屋にはもう何もなさそうだし、早く次に移りたかった。
「こっちは何もなさそうだけど、なにか……」
ころころころころ。
「……何してるの…?」
どこか楽しげに、青いビー玉を転がしている吾九汰くん。
…なんだろう。付き合ってそろそろ1年経つけど、ビー玉転がして喜ぶような人だったのかな……
なんか、笑ってるし……
……うわ、どうしよう。見なかったことにしたいかも…
でも話しかけちゃったしなぁ……
「…雪野! 次の部屋行こう!」
えー…
私の複雑な心境には気づいていない様子で、明るく吾九汰くんが言った。
仕方なく、というか、吾九汰くんに引っ張られて、私は玄関ホールに出た。
「ねぇ、急にどうしたの?」
「まあ、ちょっと来てくれ」
悶々とする私とは裏腹に、吾九汰くんは笑みすら浮かべている。
ころころころころ。
床にはさっきのビー玉が転がっている。
どうやら床が傾いているらしい。
黒々とした床面に、青いビー玉が映っている。
かなり丁寧に掃除されているようだった。
やがてビー玉はかつん、と音を立ててほぼ正面の部屋の扉にぶつかった。
「この部屋か」
嬉しそうにそう言って、吾九汰くんは部屋の扉を開ける。
何がなんだかわからないまま、部屋に入った。
ころころころころ。
こん。
「……やっぱり」
「何が?」
青いビー玉が壁に当たって止まる。
その壁を指して、よく見てみろよ、と吾九汰くんが言った。
よく意味のわからないまま、言われたとおりに壁を見てみる。
すると、わずかに隙間があるのがわかった。
「これ……」
「ああ、多分なんかの仕掛けで開くんだろうな」
そう言ってビー玉を拾い、ポケットにしまう。
「…それにしても、よく気づいたね。傾いてるって」
「ほら、館内を調べてくるって言ったろ? 偶然ポケットにペンが入ってたから、地図でも作っておこうかと思ったんだ。それでうっかり、ペンを落として…」
ペンは落ちただけでなく、転がりだした。
そしてこの部屋の前で止まったのだという。
「これだけ立派な屋敷なのに、傾いてるっていうのもどうかと思っていろんな場所からビー玉を転がしてみたんだ。そうしたら、どこから転がしても、この部屋の前で止まるみたいだった。もっとも、全て確認し終わる前に、谷角さんの遺体を見つけたもんだから、途中でそれどころじゃなくなったんだけどな」
「…因みに、そのビー玉は?」
「ん? ああ、花瓶の中に入ってたのを拝借した」
…よかった。
常にポケットに入ってるんだとか言われたらどうしようかと…
「…べ、別に好きでビー玉を転がしてた訳じゃねぇからな!」
「……うん、なんかツンデレっぽいよ、吾九汰くん」
確かにこの部屋は怪しそうだ。
しかし…
「問題は、どうやってここを開けるかだよね…」
「そこなんだよな……」
私たちが入るだけなら、ここを壊すという手もなくはない。
けれどその場合、蒼夜先輩にもこの場所が知れてしまう。
そうなれば……危ない。
「…ねえ、秋飛ちゃん、呼んでこない?」
「ん?」
三人寄れば、何とやら、だ。