私たちは外に出た。
何かが好転するわけではないけれど、それでもあのままじっとしているよりはよかった。
「まさか、実験がこんな形で終わろうとはね。さすがにこれは考えてなかった。」
「同感だな。世界の終わりを見れるとは…思わなかったな。」
太陽で橙色に染められた海は、これから崩壊が始まるということを忘れさせてくれるほど、綺麗だった。
「最後に見る夕焼けが、こんなに美しいなんてね。知らなかったよ。」
「…それだけが、救いだね。」
私は1歩、崖に近づく。
そして、ここから落ちたらひとたまりもないだろうな、と思い、苦笑した。
日が暮れれば、崩壊が始まるのだろう。
もう、あと少しだった。
やがて辺りが薄暗くなり、日没の時がやってきた。
世界が闇に包まれた瞬間のことだった。
足元の大地がガラガラと崩れ、私は海へと投げ出された。
劉と杏が手を伸ばし、私を助けようとした。
でも、無駄だった。
私自身が、その手をとろうとしなかったから。
さよならも言えず、私の意識は遠ざかっていく。
最期に見たのは、満開の桜並木の映像だった。
「…は……あげは………鳳!」
「……え……?」
「よかった…気がついたんだね!」
杏に突然抱きしめられた。く、苦しい…
「え…私、どうして……?」
「劉ー!鳳が目覚ましたよ!」
「本当か?…よかった。」
劉が安堵する。
一体、何がどうなっているんだろう…
周りを見ると、どこかで見た部屋だった。
「…ここは……?」
「あたしの研究所の応接室だよ。覚えてる?」
心配そうな表情で、私の顔を覗き込んでくる。
「鳳が落ちそうになってあたしが落ちて劉が飛び込んで助けて……あれ?」
「説明してる本人がわからなくなってどうする。」
絶妙なタイミングで突っ込みが入った。
「杏の研究所に遊びに来て、研究所内を案内されていたが、君は機械に飽きて外に出た。そして足を滑らせ海に転落。打ち所が悪かったのか、どうやら気絶していたらしい。偶然杏は落ちるところを見ていたが、泳げないので助けようにも助けられない状態で、仕方がないからボートで助けようとしたものの、引き上げる際に杏まで海に落ちた。その杏の悲鳴を聞いて、俺が海に飛び込んでボートを直し、二人を乗せて岸に戻った。だが君の意識はなかなか戻らなかったので、取り敢えず応接室に運んだ。という訳だ。」
一気に説明されて、頭が混乱しそうだ……
けれど、これでわかった。
あれは…夢、だったんだ……
「杏、泳げないのに自分でどうにかしようと思うなよ。次からは他のやつを呼べ。」
呆れたように劉が言った。
だが、杏も黙ってはいなかった。
「よく言うよ。あたしの悲鳴で駆けつけて、真っ先に鳳をボートに乗せて、何回も…」
「それ以上は言うな!」
「はいはい。」
……何をしたんだろう……
「と、とにかく、もう帰るぞ。日も暮れてきてるからな。」
「あ、うん。」
帰り道、何度かあの後のことを聞いてみたけれど、結局劉は教えてくれなかった。
…また今度、杏に訊いてみようか。